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実務修習(刑事裁判修習)〜密度がヘビーメタル〜

今回は第2クールだった刑事裁判修習について。

第2クールは、2月末から4月上旬まででした。  

 

箇条書きで自由に書きます。

 

・自分の修習地は刑事事件が非常に多く、刑事部の裁判官がたくさん。これは他の修習地にはない特徴であり、素晴らしい環境であったといえる。

・当然、配転される事件も多く恵まれていた。ただし、刑事裁判を好奇心で見るということはプロになろうとする者として違うような気がするので、きちんと自分の中でどういう意味を持って捉えるのかは良く考えるようにしていた。

・私の修習地では、配属先の部に修習生が3~4人程配属された(修習地により人数に差がある)。年齢や性別、経歴等を踏まえて修習生の組み合わせが決められていると思う。

・基本的には配属部の裁判官室の中で過ごすことになる。中でのルールは裁判官室ごとにあるのでそれに従えば良い。

第1クールが弁護修習であったため、初めての問研起案となった。刑裁は1日を使って行われ、フル起案の大変さを痛感した。

・問研起案のポイントについては、以前の起案の書き方の記事が参考になると思うので、そちらをご覧いただければ。

・問研起案の解説のタイミングは、教官や修習地によってまちまち。

・問研起案の解説はきちんと聞いておくと良い。研修所による起案は他に集合修習しかないため、とても貴重である。

起案の書き直しをするのはとても勉強になるのでおすすめ。

・問研起案の解説は、時間のある裁判官も聴講していた。裁判官は勉強会も頻繁に開催しており、非常に勉強熱心な方が多いと感じる。

・問研起案以外の修習の内容としては、起案、手続傍聴、令状事務、模擬裁判、勉強会、書記官事務、家庭裁判所修習(修習地によっては他の修習に組み込まれていることもある)があった。

起案は、判決起案裁判員裁判のレポートを行った。ノルマは4本で、そのうち2本以上は事実認定起案でなければならない。

・判決起案は、できる限り修習生に相応しい事件を指導担当の裁判官がふってくださる。また、なるべく進行中の事件をふってくださり、手続傍聴にも問題意識を持って臨めるように配慮していただいていた。既済記録を使っての起案も、それはそれで良い素材であるからこそ振ってくださっているので、やはり勉強になる。

・指導担当によるが、指示がなければ基本的には研修所の書き方で起案をすれば良く、実際そのようにする修習生が多い。私はせっかくの機会なので一部の起案では判決書の形式で書いて出してみていた。こういう些細なチャレンジはやってみても良いと思う。

・裁判員裁判のレポートは、裁判員裁判の傍聴(評議を含む)を受けての感想や弁護側に立っての最終弁論又は検察側に立っての論告を起案するというものであった。おそらく、裁判員裁判を内から見ている修習生がどんな印象を受けるか、また、判決を書くにあたり重要な視点がないかを検証したくてこのような課題を出してくださったのではないかと思う。このように修習生に期待してくださっている部分も感じられたのはとても嬉しいし、きちんとその想いに応えたいと思えた。実際に形にできていたかというと自信はないが。

・提出した起案については、フィードバックがもらえる。その際に疑問点をぶつけてみても良いと思う。

手続傍聴の対象としては、打合せ、公判前整理手続、公判、評議、反省会があった。

・刑事裁判修習は、手続傍聴が多くを占めるのでこれとどう向き合うかが充実度に大きく関わると思う。

・手続傍聴にあたっては、事前に裁判官の手控えを見せて頂いたり、記録の閲読をさせて頂くことになる。自分なりにポイントや見所を考えて臨むと良い。

・手続傍聴後は、質問が出なくなるまで徹底的に発言の意図を教えて頂いたり、議論をしたりした。かなり手厚いフォローだったと思う。

・手続に関して分からないことは、『プラクティス刑事裁判』や『プロシーディングス刑事裁判 』をベースに調べれば大体のことは解決する。

裁判員裁判の評議の傍聴は、裁判官にならない限り、最初で最後のチャンスなので大切。しかし、一切動けないのはとても辛かった。

 ・令状事務は、勾留質問や保釈、準抗告等についての検討や議論、手続傍聴を行った。見れるタイミングが限られているが重要なので、とても貴重である。

・令状事務に関しては、予め基本的な勉強をしておくと良いと思う。とはいっても、身体拘束に関する刑事訴訟法の本や白表紙を読んでおけば十分。

模擬裁判は、修習生(私の修習地では、複数の刑事部に配属された修習生合同で行われた)が裁判官、検察官、弁護人のいずれかになって、公判前整理手続と公判を1回ずつ行うというものである。被告人や被害者は裁判官がつとめてくださる。

・模擬裁判の事件は、研修所から指定された事件がいくつかあり、その中から配属先の刑事部が選定したものを用いているらしい。そのため、修習地やクール、配属先ごとに事件が異なることもある。

公判前整理手続と公判が1回ずつしかないので非常にタイト。特に公判前整理手続できちんと詰めておくことが重要である。自分は裁判官役をつとめたのだが、これがきちんとできなかったのが大きな反省点だった(後の講評で私がそこを気にしていたことは裁判官に伝わっていたらしいが、形にできなければできていないことと同じである)。

・必要な書面も全部修習生で作るのでとても勉強になる。

・模擬裁判の際は、多くの裁判官が見ているのでかなり緊張した。

・その分、色々な講評が聞けて収穫も多かった。

勉強会は、様々なものがあった。左陪席による研修所起案の書き方のレクチャー(このブログに書いた起案の書き方の記事は、ここで教わったことをベースにしている)、自庁問題研究(修習地の裁判所が主催するケース検討)、判例研究等である。

・配属先であった判例研究で事前に周到な準備をしていったが、それを圧倒的に凌駕する解説を受けた時はシビれた。

書記官事務は、配属部の主任書記官が書記官事務の全般的なことを教えてくださった。実務的に重要なことも多く、すぐに使える知識ばかり。

家庭裁判所修習は、1週間ほど家庭裁判所に移り、家事事件少年事件についての修習を行う。

・1日目は家庭裁判所についてのレクチャー等、残りの4日のうち、半分は家事部、もう半分は少年部で過ごすことになる(同じ班の修習生が2グループが分かれて動いた)。

・かなり短い期間なので、ある程度の量を確保することが修習の実をあげることに繋がるという意識を持っていた。そのため、できる限り多くの事件記録を読む、手続傍聴をするように努めた。

・本格的に家庭裁判所での修習をしたいのであれば、選択修習の個別プログラムを履修すると良い(人気のプログラムなので抽選の可能性大)。

・全体を通して、刑事裁判修習にしっかり取り組んでいけば、自然と自力がついていくように感じる。当初はあまり実感がなかったが、こうして振り返ってみると、刑事手続全般の基礎を学べていたのだなと思う。第3クールの検察修習で色々できたのも刑事裁判修習でたくさんのことを教わったからだと感じている。

・最初にも書いたように、配属先の刑事部の裁判官が非常に多く恵まれていた。2合議体+単独の専任の裁判官という構成。もっとこの贅沢さを活かしたかった。

・他の刑事部の裁判官との交流も多く、修習生の面倒をしっかり見ようという雰囲気があるのがとてもありがたかった。

・ 第2クールは4月をまたぐので、裁判官・書記官の異動の時期に重なる。そのため、一部の裁判官・書記官が変わった。これによって大きく部の雰囲気が変わることもあると聞く。修習生としては、色々な裁判官の仕事を見られるという点ではメリットになると思う。

・裁判官は皆、検察官や弁護人の意図を汲むのが上手い。手続傍聴や書面でよく分からないことがあって聞いてみると、その意味を代わりに説明してくださったりした。経験と研鑽の賜物だと思う。

・手続傍聴等では、裁判官のみならず、当事者や弁護人、検察官としての視点で見てみることもあった。「もし自分だったらこうしたいな…」と考えることは、今後に繋がると思う。

・外と内でキャラクターを使い分けている裁判官も多い。「裁判官も人なんだな」と思えてすごく良かった。

・弁護修習と異なり、修習生同士で議論や質問、感想を言い合ったりできるのも良かった。色々な意見を聞けるのは勉強になるし、そういった話を聞いた裁判官が入ってきてさらに話が広がっていくのも嬉しかった。

このブログでも何度かおすすめしている『刑事弁護の基礎知識』は、左陪席の裁判官の皆様のデスクにも置いてあった。聞くと、やはり評価が高い。

・裁判官は非常に勉強熱心。白表紙の改訂部分のコピーをさせて欲しいと頼まれたり、自分の疑問点を解消してくれるような論文をすぐに見せてくださったり。この姿勢は自分も真似していきたい。

・お昼ごはんが充実するようにランチマップを頂いた。美味しいお店がたくさん知れて幸せ。

 

このように、かなりぎっしりと詰まった修習でした。

「司法修習の核は裁判修習である」と言われることの意味がなんとなく分かった気がします。他も同じくらい大事だと思いますけどね。

 

おまけです!

<参考になる書籍・論文リスト>

※太字がおすすめ。通読の必要はないです。版はいずれも最新ものと考えて頂ければ。

※ほとんど裁判官室にあります。

事実認定

・『刑事事実認定入門』石井一正

・『刑事事実認定の基本問題』木谷明

『刑事事実認定重要判決50選 上』小林充ほか

『刑事事実認定重要判決50選 下』小林充ほか

・『情況証拠の観点から見た事実認定』中川武隆ほか

『難解な法律概念と裁判員裁判』司法研修所

令状

『令状に関する理論と実務 Ⅰ』(別冊判例タイムズ34号)高麗邦彦ほか

『令状に関する理論と実務 Ⅱ』(別冊判例タイムズ35号)高麗邦彦ほか

・『令状基本問題 上』新関雅夫ほか

・『令状基本問題 下』新関雅夫ほか

・『令状事務』裁判所職員総合研究所

量刑

『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』司法研修所

・『量刑実務大系 第1巻〜第5巻』大阪刑事実務研究会 

・『量刑判断の実際』原田國男

・『裁判員裁判の量刑 Ⅰ』日本弁護士連合会刑事弁護センター

・『裁判員裁判の量刑 Ⅱ』日本弁護士連合会刑事弁護センター

責任能力

・『刑事精神鑑定のすべて(専門医のための精神科臨床リュミエール)』五十嵐禎人

『ICD-10 精神及び行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン』医学書院

『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』医学書院

「責任能力判断の構造と着眼点 8ステップと7つの着眼点」(精神経誌115巻10号)岡田幸之

その他

・『刑事第一審公判手続の概要 参考記録に基づいて』司法研修所

・『公判手続と調書講義案』裁判所職員総合研究所

・『刑事実務(公判準備等)講義案』裁判所職員総合研究所

・『新基本法コンメンタール 刑事訴訟法』三井誠ほか

・『条解 刑事訴訟法』松尾浩也ほか

・『解説 裁判員法』池田修ほか

・『コンメンタール 公判前整理手続』大阪弁護士会

・『公判前整理手続の実務』山崎学