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実務修習(検察修習)〜スイッチオン〜

今回は第3クールだった検察修習について。

第3クールは、4月上旬から6月下旬まででした。 

 

箇条書きで自由に書きます。

 

・検察修習は自分にとって修習のハイライトだったように思う。

・というのも、検察修習は自らの裁量で動く範囲が広いので、かなりの主体性をもって臨めたからである。また、自分の取り組みが指導担当のリアクションとして返ってくるため、明確に評価が分かりモチベーションを維持しやすかったからでもある。

・正直なところ、当初検察修習にはあまり期待していなかっただけに、今このように自分が書いているのが信じられないくらい。

・これは指導担当検事や事務官をはじめとする検察庁の皆さまが魅力的で優しかったからに他ならない。ここでも人に恵まれたなと思う。

・検察修習は、同じ班の修習生が一部屋に集まって修習を行うため、とても心強い。班の中でさらにグループ分けがされており(ひとつのグループに3~4人の修習生)、そのグループで捜査実務演習に取り組んでいくことになる。私の修習地では、検察志望の人が同じグループにならないようになっていた。

・検察修習の内容としては、問研起案、検察実務導入教育、捜査実務演習、公判実務演習、その他見学等があった。

問研起案は、第2クールの刑事裁判修習に続き2回目のフル起案となった。検察の問研起案も丸1日かけて行われるフル起案である。

・検察のフル起案は、書くことが非常に多いので必要なことを書ききるタイムマネジメント力とバランス感覚が重要であると思う。

・詳細は、以前投稿した起案の書き方の記事を参照して頂ければと思う。『検察終局処分起案の書き方』の型をマスターすれば大外しはしないはず。

・成績評価は、教官が掛け持ちをする自分たちの班と別の修習地の中での相対評価になるが、このクールでは自分たちの班がAを総取りしたらしい。自分の班はなんだかんだみんなしっかり修習に取り組んでいるし、勉強意欲もあるので良い環境だったと思う。

・問研起案での教官の解説が分かりやすく、起案の書き方の理解を深めることができた。モヤモヤが一気に晴れたと言った方が分かりやすいか。班の修習生がどんどん質問してくれたのも大きい。(最終的に班のほとんどの人が1度は自ら発言していた。すごい。)

検察実務導入教育としては、役職持ちの検事の講義、模擬取調べ、交通事件ディスカッションがあった。

・役職持ちの検事うち、検事正、総務部長、刑事部長、特別刑事部長、公判部長、交通部長の講義がそれぞれ1~2時間程度あった。検察の職務内容や組織、各人の経験等を聞くことができとても勉強になった。特に仕事に対する姿勢については、いずれの法曹になるにしても学ぶべきところが多いものだと思う。

模擬取調べは、捜査・事件処理を行うためのロールプレイングである。前日に渡された記録を読み込んでおき、被疑者役の指導担当検事らの取調べを行うというもの。修習生全員が順に行う。ロールプレイングというが、ここで各修習生の実力や性格を推し測られているので、きちんと準備をしておくと良い。

・同じ記録を用いていても、被疑者役は、修習生ごとに話す内容を変えてくるので油断できない。

・先ほど、実力等が推し測られていると書いた。少なくとも私の修習地での検察修習では、やりがいのある事件が頑張っている修習生に回されていたので、頭の片隅で常に意識しておくと良い。大部屋で修習生がたくさんいるので、ついつい気が抜けてしまうことがあるが、指導担当検事や事務官はちゃんと見ている。

交通事件ディスカッションは、実際の交通事件の記録を題材にグループごとに起訴相当か不起訴相当かを発表して議論を行うというもの。指導担当検事のみならず、交通部長や総務部長も交えた議論は白熱した。

捜査実務演習は、捜査・事件処理がメインであり、これが検察修習の中核でもある。この他に、里親検事等による捜査への立会いもあった。

捜査・事件処理は、各修習生が実際の事件につき被疑者等の取調べや警察と連携しての証拠収集をはじめとする捜査活動をしたうえで、処分内容を決定し、決裁官の決裁を受けるというものである。

・自らの事件である主任担当とグループの修習生の事件であり事務官役などを務めてフォローする協力とがあり、どの修習地であっても合計で最低3件に携わることがノルマとされている。

・修習地や時期によって、携われる事件数、主任となれる事件数、身柄区分(在宅か身柄か)等はまちまち。

・私の修習地は例の如く、刑事事件が非常に多いことから、携われる事件数や主任となれる事件数は多く、在宅のみならず身柄の事件の取扱いもあった。私についていえば、携わった事件は7件、主任担当事件は3件(うち2件が在宅、1件が身柄)であった。

・検察志望の修習生にはある程度のやりがいのある事件が振られやすいが、その他の修習生でも積極的に手をあげたり、頑張り次第でチャンスがもらえる。自分が最後に身柄の事件を振ってもらえたのは、それまでの2件の処理を頑張っていたからこそだと思う。

・ちなみに在宅事件だからといって捜査が簡単ということではない。むしろ、軽微な事件では、警察の手が回りきっていないために初期の段階では証拠が揃っていないことも多く、難しかったりする。ひとつとして簡単な事件はない

・証拠収集については、警察に動いてもらうよう指示をするのが基本となる。しかし、自ら動く必要が出てくることもあるし、警察へお願いをするにあたっては自分がきちんと分かっていないといけないので、警察に任せていれば大丈夫という思考は望ましくないだろう。

・証拠収集のため、現場に赴くこともしばしばあった。遠出の場合は、事務官が車で連れて行ってくださることもある。

・警察や関係各所への連絡のため、電話を使うことも多い。電話対応の巧拙も証拠収集の結果に大きく影響すると思っているので良く考えて臨むと良いのではないか。

・取調べでは、事情を聴取した上、口授で供述調書を作成するところまでやる。

・取調べの対象は、被疑者や被疑者の家族、被害者、その他関係者等である。誰をいつ呼んで何を聞くか全て自分で判断していくことになる。過不足なくやるのが理想的。

取調べの方法に正解はないし、人や状況によって様々に適切な形があると思う。個人的には、被疑者に対しては強く当たるよりも、話をきちんと聞いた上で不明瞭な点や矛盾点、気になった点を掘り下げていく方が性に合っているし、必要な情報を引き出せると思っていたので、そういったスタイルを基本線に据えてやっていた(「北風と太陽」をイメージすると分かりやすいかも)。

具体的に話してもらうことで取調べの質がグッと上がると思う。例えば、故意の有無が問題となる事案で、被疑者に「常識的に悪いことだと思っていました」と供述してもらうのと「映画『マフィアウォーズ』のシーンで犯罪になることは知っていたので悪いことだと思っていました」と供述してもらうのとでは後者の方がリアリティがあるし具体的なので良い供述を引き出したということになるだろう。

・取調べ場所は、基本的に修習生がいる大部屋の中の仕切られたところであったため、他の修習生の取調べの様子をうかがうことができた。時折、耳を傾けて参考にできるところは真似するように努めていた。

・決裁官は修習地ごとに異なるが、何段階かの決裁を全て通さなければならない点は共通している。私の修習地では、指導担当検事、総務部長、次席から決裁を受ける必要があった。

・決裁にあたって準備する起案については、『検察終局処分起案の書き方』の後ろの方に説明等があるのでそれを参考にすると良い。

・決裁の場面での説明は、分かりやすく説得的に。また、証拠と事実に基づいてするように。

・上の決裁官にいくごとに、鋭い指摘が飛んでくる。修習生の話だけで本質的なところに切り込めるのは、経験の豊かさからであろうか。実際の検察官も同様の決裁プロセスを経ているため、決裁を得ることの難しさを体感できるのはとても素晴らしいことだと思う。また、かなり慎重に処分内容を検討していることを知ることができ、検察が闇雲に起訴をしている訳ではないことを改めて確認できたのも良かった。

・一度、決裁の時に六法全書を持っていったつもりが、広辞苑を持っていってしまったことがあった。結局、誰にもバレていなかったと思うが、今思い出すとちょっと面白い。決裁に行く際は、それくらい緊張するし大変である。

・先に書いた取調べの質の話のように、捜査において細かく詰めていける部分はたくさんある。そこまでやらなくても決裁を得られることは多いであろうが、こういうところへのこだわりは、自分の仕事に誇りを持つためには大切だと考えている。神は細部に宿る

・そのこだわりが、たまたま結果に繋がったことがあった。守秘義務との関係で内容には立ち入れないが、修習生に振ることのできるものなので、重すぎないものであるとの見込みで指導担当検事から振っていただいた身柄事件で、共犯者や余罪が明らかになるにまで至った。この件に関しては、色々な面で特殊な対応をする必要が出てきた(これに関係するひとつの起案が形になるまで指導担当検事との間を10回近く往復したりした)し、大きなプレッシャーを背負うことになったが、得るものは非常に多かった。

里親検事等による捜査への立会いとしては、司法解剖立会事件相談立会があった。

・私の修習地では、司法解剖は全員見れることになっていたが、見たくない修習生は辞退しても良いことになっていた。今後何かに役立てられそうにもないので、実務修習に組み込むのはどうなんだろうとは思う。

・捜査に関しては、グループごとに担当の里親検事が刑事部から割り当てられており、その里親検事の取調べ等を見させてもらうことになる。自分たちは、警察以外の捜査機関(守秘義務との関係でぼかしている)との事件相談を見させてもらった。

公判実務修習では、修習生ごとに担当の里親検事がひとり公判部から割り当てられており、その里親検事に与えられた課題に取り組んで指導を受けたり、公判に立ち会ったりした。その他、裁判員裁判公判リハーサルに参加したり、裁判員裁判論告演習を行ったりした。

・公判部の里親検事からの課題としては、証拠分け(証拠の厳選(刑事訴訟規則189条の2)を行うイメージ)や論告の起案があった。

裁判員裁判公判リハーサルは、検事が裁判員裁判のリハーサルとして冒頭陳述や論告を決裁官らの前で行いブラッシュアップを行うものである。修習生もここに参加して意見を述べることになった。修習生の意見も積極的に取り入れて頂き、検事の皆様の真摯さに触れることができた。誰の意見であっても、良いものは取り入れるという姿勢はプロとして正しいことだと思うし、なかなかできることではないので心を打たれた。

裁判員裁判論告演習は、実際の裁判員裁判の記録を題材にグループごとに論告メモを作成し、論告を行うというもの。自分は指導担当検事から指名を頂いたため、発表することに。自分の班を褒めてばかりで恐縮だが、どの発表者もプレゼン・内容面共に素晴らしくて震えた。発表の際の重圧ですらとても大きかったので、実際の法廷では一体どうなるのか(弁護士なので、論告ではなく、弁護人として最終弁論をするということになろうが)不安でもあり、楽しみでもある。

・私の修習地では、刑事部と公判部があるため、捜査と公判を行う検事が別であったため、上記のような里親検事の割り振りになっていたが、修習地によってはいずれも同じ検事が務めることがあり、その場合は、制度も異なるものと思われる。この点については修習地ごとに確認されたい。

その他見学等としては、配転事件ディスカッション、刑務所見学、県警本部見学、検察官室見学、証拠品閲覧、条例審査を行った。

配転事件ディスカッションは、捜査実務につき各グループの扱っている事件のひとつの進捗状況の報告や方針の相談を行うというものであった。扱っている事件の異同を考えることで新たな気づきを得たり、取り扱っていない事件の捜査の流れを学んだりすることができた。

各種見学は、いずれも貴重であり、刑事実務の実情を知る上で大いに役立った。

証拠品閲覧では、証拠品から薬物の密輸の態様を把握するという取り組みをした。証拠に基づいて考えることの重要性を肌身をもって感じられる機会となった。

条例審査も、検察官の業務であり、グループで数件担当した。こちらは、刑事の知識のみならず、行政法的な視点も必要になるので、また違った難しさがあった。

・第3クールかつこれまでのクールで刑事に関する実務修習は全て終えているということもあり、検察修習は刑事の実務修習の集大成となった。文字通り、自分の持っているものを全てぶつけていった感じがある。

・大変な部分もあったが、大きなやりがいを感じながら取り組むことができた。

・検察修習のある時から自分の中で何かスイッチが入った感じがあり、成長できている確かな手応えのようなものがあった。このあたりを境にして教官からも「変わったね」といい意味で言って頂けるように。勘違いかもしれないけれど、こういう感覚を持てることは嬉しいもの。

 

検察修習の終わる直前あたりに指導担当検事から素敵なメールを頂きました。その内容は種々の事情からここには書けませんが、修習生としてこの上ない賛辞ともとれるもので、とても感動したことを鮮明に覚えていますし、嬉しい気持ちは今でも変わりません。ずっと大切にとっておこうと思います。