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二回試験対策(刑事弁護)

刑事弁護起案のまとめです。

 

教官のおっしゃっていること、司法研修所で習うことが第一ですので、以下の記載とずれる部分がありましたら、必ずそちらを優先するようにしてください。

 

1 前提

 

書き方等について何か大きな拠り所となるレジュメがあるわけではないが、他の科目の理解をベースに、弁護人としての立場からの主張をきちんとできるようになれば良い。別の記事でも触れたように『刑事弁護の基礎知識』の内容を理解し、答案に落とし込めるようにしておくと良いと思う。以下で書いてあることのほとんどは『刑事弁護の基礎知識』で学べる。

 

2 危ないミス

 

・設問の指示に従わない。設問を読み間違える。

・被疑者・被告人の話に従わない(=誠実義務違反)。仮定的な主張をする。

・証拠構造を誤って把握する。

・重要な間接事実についての主張を落とす。

・ケースセオリーが確立していない。

 

3 主な問題の構成

 

 第1問

  想定弁論

 第2問以下 ※出題数は様々

  冒頭陳述、予定主張記載書面、証拠意見、証拠収集、取調べ等への対応、証人尋問・被告人質問の想定問答、異議、法曹倫理等

 

4 出題傾向の変化

 

 特になし

 

5 想定弁論

 

・想定弁論とは、最終弁論(刑事訴訟法293条2項)を公判審理に先駆けて作成したものをいう。これにより、証拠調べの目標を明確にするなどしてベストな弁護を目指すためである。このようなことから、最初の設問である第1問で記述が求められる(ただし、前提として検察官の証拠構造を問われるものが第1問に来る場合があり、第2問で問われることもある)。

・このような想定弁論の性質から、後の設問も想定弁論をベースにして記述していくことになる。そのため、想定弁論の出来は、全ての設問に影響し得るといえ、重要であることは明らかである。

証明予定事実記載書をヒントに検察官の立証構造を把握する。

・そのうえで最も有効なケースセオリーを立てる。「〜というストーリーもあり得るし、〜というストーリーもあり得る」といったように複数のケースセオリーを立てるのは、説得力を損うので避ける。

・ケースセオリーを立てる際は、被疑者・被告人の主張を何よりも優先する。被疑者・被告人の主張に沿わない弁護活動は誠実義務違反であり、重大なミスとなる。

・最終的な目標としては、無罪を目指す場合や認定落ちを目指す場合、執行猶予付判決を目指す場合がある(これも被疑者・被告人の主張に忠実に従う)。

・答案は、全体の構成も、個々の議論も、結論→理由という流れで書く。

・被疑者・被告人のことは、「◯◯さん」「◯◯氏」といったように名前+敬称で徹頭徹尾記載する。

・検察官の主張をつぶしてから、被疑者・被告人の供述の信用性につき検討する(そういった点での構成は、他の刑事系科目と共通しているといえる)。詳細な構成は下記の答案構成例参照。

・主張に際しては必ず証拠を引用する。

・検察官立証に対する争い方は次の4つである。

①直接証拠の信用性を弾劾する

信用性判断の着眼点(客観証拠との整合性、視認状況、一貫性、合理性、利害関係、変遷の有無、供述態度、虚偽供述の動機等)に基づいて判断していく。着眼点の詳細については、『刑事事実認定ガイド』や『検察終局処分起案の書き方』参照。

信用性を検討する供述との関係で問題となる着眼点についてのみ記述する。総花的な記述はしない。

②間接事実の存否を争う

間接証拠の証拠能力や証明力を争っていく。

③間接事実の推認力を争う

具体的なケースセオリー(≒反対仮説)を提示していく。

④消極的間接事実を主張する

要証事実の不存在を直接推認させる事実(アリバイ等)を主張していく。

・上記①に関して、犯人識別供述については、識別手続がポイントとなることがある。「変遷前供述→面割り→面通し→変遷後供述」という流れの中で、捜査機関による誘導供述者の勘違いが介在する余地がなかったかについては要検討である。

・直接証拠の信用性を弾劾しても、なお間接事実として機能する場合がある。例えば、直接証拠たる犯人識別供述を弾劾しても、なお犯人と被告人の特徴の一致という間接事実として立てることができる場合があげられる。その場合は、間接事実についてもきちんと争う必要がある。

・上記①及び②に関して、供述の変遷が問題となるケースは頻出である。その際は、(a)変遷の指摘(b)変遷部分の重要性(c)変遷の合理的理由(d)変遷の真の理由という4ステップで記述していく。(b)については、変遷部分の重要性を述べたうえで、重要である以上、供述者は供述するはずであるし、供述録取者も確認し、調書に記載するはずであるという2つの視点からの指摘をする。

・執行猶予付判決を目指す場合、量刑事実認定量刑判断についてそれぞれ論じていくと論旨が明快となる。

・そして、量刑判断については、量刑の3ステップに従って記述していくことになる。

・量刑の3ステップとは、①社会的類型の量刑傾向の把握、②当該類型における当該事件の行為責任の相対的位置づけの評価による責任刑の幅の判断、③一般情状の考慮による刑の決定である。①に関しては、量刑分布が資料として配布されるので適切な量刑分布をその中から選択する(その際、検索条件のみならず、サンプル数の多さも重視する)。

・犯人性が認められないことをいう場合は、被疑者が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない事実関係がない(最判平成22年4月27日(刑集64巻3号233頁)参照)といった指摘をすると良い。

 

<答案構成例>

第1 結論

 ◯◯氏は無罪である。◯◯氏は本件の犯人ではない。

 ※このように結論と理由を簡潔に述べる。

第2 理由

 1 被害者の供述が信用できないこと(直接証拠)

  ⑴ 被害者は「◯◯氏が犯人である」旨供述するが(甲5)、以下に述べるように、信用できない。

   ア 視認条件が悪いこと

    〜〜〜

   イ 虚偽供述の動機があること

    〜〜〜

  ⑵ よって、被害者のかかる供述は信用できず、かかる供述から◯◯氏が犯人であるといえないことは明らかである。

 2 検察官主張の間接事実について

  検察官は、以下の間接事実から◯◯氏が犯人であると主張する。しかし、以下の間接事実は存在しないものであったり、◯◯氏の犯人性を推認させるものではなかったりする。以下詳述する。

  ⑴ 〜〜〜(間接事実1)について 

   △△氏は、「〜」という旨の供述をしている(甲10)。しかし、以下の理由から、かかる供述は信用できない。

   ア 供述が変遷していること

    〜〜〜

   イ 利害関係があること

    〜〜〜

   ウ よって、△△氏のかかる供述は信用できない。

  ⑵ 〜〜〜(間接事実2)について

   ア たしかに、甲7によれば、〜という事実は存在する。

   イ しかし、〜なので(◇◇氏事情聴取メモ)、〜であるから、◯◯氏の犯人性を推認させるものではない。

 3 消極的間接事実

  ア 開示1によれば、◯◯氏は令和元年6月1日午後8時頃、ABC公園にいたことが認められる。

  イ 本件犯行は令和元年6月1日午後8時5分にEFG駅で発生してものであり(甲1)、同駅からABC公園までは車で約1時間程かかる(弁1)ことを踏まえると、◯◯氏が犯行時に現場にいることは物理的に不可能であるといえるから、◯◯氏が犯人でないことを裏付ける。

 4 ◯◯氏供述の信用性

  ⑴ 供述の概要

   ◯◯氏は、「〜」という旨の供述をしている(◯◯氏事情聴取メモ、甲3)。

  ⑵ 信用性

   ア 客観証拠と整合すること

    〜〜〜

   イ 内容が合理的であること

    〜〜〜

   ウ 自己に不利益な事実も認めていること

    〜〜〜

   エ よって、◯◯氏のかかる供述は信用できる。

 5 結語

   以上より、◯◯氏が犯人でないとしたならば合理的に説明できない事実はないから、合理的な疑いを超えて◯◯氏が犯人であるといえないことは明らかである。

 

6 小問

 

※いずれの小問も先の想定弁論で記述したことを念頭に置きながら記述する。

 

⑴ 冒頭陳述

 

・冒頭陳述を作成する問題。

・事実認定者に、ストーリーを伝え、そのストーリーをイメージして審理にあたってもらうことが目的である。

事実ストーリーを語る。証拠を議論する場ではない(最終弁論との違い)。

・被告人に人格付与をする。

・検察官の主張との違いを明示する。

証拠調べのガイドをする。

 

⑵ 予定主張記載書面

 

・予定主張記載書面を作成する問題。

・主張関連証拠開示請求を行えるようにすることと被告人の請求証拠を採用させることが目標。

①公訴事実を争うか否か②証明予定事実③事実上の主張④法律上の主張を記載する(必ずしも全て記載する必要はなく、事案に合わせて臨機応変に)。

・詳細な認否やストーリーの記載、証拠の議論はしない。

 

⑶ 証拠意見

 

・検察官請求証拠に対する証拠意見とその理由を述べる問題。

非供述証拠→「異議なし。」「異議あり。〜(理由)」

供述証拠→「同意」「不同意」

・被告人の供述の場合は、さらにいくつか詳細な証拠意見の方法がある。詳細は『刑事弁護の基礎知識』等を参照。

・結論よりも、理由付けが重視される。

 

⑷ 証拠収集

 

・不足している証拠収集の方法等について述べる問題。

・現場の見分をはじめとする調査、開示証拠の証明力等を判断するための調査、弁護士会照会(弁護士法23条の2)、公務所等への照会(刑事訴訟法279条)、証拠保全請求(刑事訴訟法179条1項)、報告書の作成、図面・写真の証拠調べ請求をして作成者の証人尋問を請求する等が考えられる。

 

⑸ 取調べ等への対応

 

・取調べの対応の方針や違法な取調べがあった場合の対応等について述べる問題。

・違法な取調べについては、関係各所への抗議、弁護人による取調べを実施し供述調書を作成して証拠化等が考えられる。

・取調べの対応の方針については、原則は黙秘であることを意識する。

 

⑹ 類型証拠開示請求

 

・類型証拠開示請求(刑事訴訟法316条の15第1項)の識別するに足りる事項各号該当性重要性・必要性につき述べる問題。

・識別するに足りる事項については、「△△氏の全ての供述録取書等」といったように

広い範囲を捕捉できるようにする。「供述書」では狭い。

・各号該当性は間違えないように。

・重要性・必要性は、「検察官請求甲10号証の△△氏の検察官に対する供述調書は、◯◯氏が犯行に及んでいることを目撃した旨の供述が記載されたものであるが、その証明力を判断するには、同人の供述調書等の全ての開示を受けて、その供述経過及び記載内容を検討することが重要であるとともに、被告人の防御準備のためにも必要である。」といったような形で記述する。

 

⑺ 証人尋問・被告人質問の想定問答

 

・証人尋問・被告人質問における獲得目標とその理由を述べる問題。

・想定弁論で必要となることが明らかになった証拠や大きな争点となると考えた部分に関係するような供述を引き出せば良い。

・唯一の解答があるわけではないので迷いすぎない。

 

⑻ 異議

 

・異議事由と根拠条文を述べる問題。

 

⑼ 法曹倫理

 

・事例における法曹倫理上の問題点につき検討するような出題がされる。

・集合修習で扱った部分のレジュメを読むなどしておくと良い。

 

⑽ その他

 

・刑事弁護の小問はバラエティーに富んでおり、上記以外の分野の出題も十分に考えられる。

・しかし、実務修習で刑事事件につき真摯に学び、他の刑事系の科目の小問対策もきちんとしていれば一定の解答はできるような問題が出題されるはずであるから、不安に思う必要はない。

 

7 ポイント

 

・冒頭にある被疑者からの事情聴取メモが何よりも重要。これに忠実に従い、検察官の証拠構造を意識しながら、確立したひとつのケースセオリーに基づいて説得的に主張をしていく。

・設問ごとに枚数指定があるため、量よりも質が重要になる。

 

8 使っていた教材

 

各教材の詳細についてはこちらをご参照ください。

・『刑事弁護の基礎知識』

・『刑事弁護の手引き』(白表紙)

・『刑事弁護講義ノート』(白表紙) 

 

以上です。

冒頭の繰り返しになりますが、教官のおっしゃっていること、司法研修所で習うことが第一ですので、これまでの記載とずれる部分がありましたら、必ずそちらを優先するようにしてください。