LAW BLOG

bar exam & legal news

平成30年度司法試験の出題形式

平成30年度司法試験の論文ではいささか出題形式に変更がありました。これにつき、合格者や諸先輩方からは本質は変わらないとの指摘があがるところです。この指摘の意味について考えてみたいと思います。

 

平成30年度の司法試験で出題形式に大きな変化があったのは憲法と刑法です。

 

憲法に関しては、従来の3者間の立場からの立論が明確に求められなくなりました。しかし、明確に求められなくなったにすぎないともいえます。すなわち、従来と同様の書き方もできるし、いきなり私見を書きながらその中で各当事者の主張・反論を差し込むような書き方もできるようになったのですね。どっちでも良いんです。従来の書き方も新しい書き方も否定はされていないのですから。その意味では書き方の幅が広がったとさえ言えるかと。

私は現場でどちらの書き方を選択するか非常に迷いましたが、従来の書き方でいくことにしました。これまでの勉強で培ってきた書き方を捨て去り、新しい書き方を本番でいきなり実践するのは時間のロスやミスを生じるリスクが高いと判断したからです。ただでさえ5パターンに分けて書かなければならないという指定があるのに、形式面にまで配慮する余裕はなかったので。結果として書ききることができたので現場での判断としては良い選択であったと思っています。

ただし、対策ができる次年度以降は適切な書き方をご自身で用意しておく必要があるでしょう(平成30年度司法試験の採点実感で何かしらの言及があると良いですね)。おそらく私見の中に当事者の主張・反論を入れ込むパターンの方が読みやすい答案が書けるのではないかと思いますし、そっちで書いて欲しいからこそ問い方を変えたのでしょう。

ということで、憲法については表面的な問い方が少し違っただけで、「多角的な視点から判例を意識して憲法上の問題を検討し、自らの見解を示す」という点が問われていることは従来から変わらないのだと思います。

 

刑法については最もわかりやすい設問2をとりあげます。あの問題では殺人未遂罪、保護責任者遺棄罪それぞれが成立するという立場からの見解をふまえつつ私見を書くことが求められていました。殺意の有無が両者を区別する基準になるところであり、その認定のための事実が多く問題に書かれていました。そのため仮に設問2の(1)(2)の指定がなくても、「たしかに〜しかし〜」のパターンで殺意の有無を厚く検討することになったと思います。とすれば、むしろあの指定は問題を解くためのヒントになっていたのではないでしょうか。。解答としては、それぞれの罪の成立に有利な事実と評価を分けて書けば良いだけです。結局、刑法も問い方を少し変えただけにすぎず、「反対事実に配慮しながらいかなる罪責が成立するかを検討する」ことが求められている点で従来と変わりはないのだと思います。学説の対立についての知見を問うための形式ではなかったということです。

 

という感じで、見てくれは結構変わっていましたが事例問題を適切に処理できるかという中身については変化がなかったというのが多くの方が指摘されていることの意味なのだと思います。

 

もちろん、私も本番では戸惑いました。ですが、そういう時こそ慌てずに、何が求められているか、どのように対処するのが最善かを考えて動けるように準備しておくことが大切なのだと身をもって実感した次第です。それなりの実力があれば問題の意図は必ず掴めるはずです。その実力をつけるための準備こそが日々の勉強なんだと思います。