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二回試験対策(民事裁判)

民事裁判起案のまとめです。

 

教官のおっしゃていること、司法研修所で習うことが第一ですので、以下の記載とずれる部分がありましたら、必ずそちらを優先するようにしてください。

 

1 前提

 

導入修習で「民事裁判起案の留意点」というレジュメが配られるはず。そこに書き方のルールが書いてあるので熟読する。起案の前に必ず読む。

 

2 危ないミス

 

・設問の指示に従わない。

・訴訟物の間違い。

・重要な要件事実を落とす。

・既に変更、取下げ、撤回された請求や主張について記述。

・争点の間違い。

・判断枠組の間違い。

・時間切れ。

 

3 主な問題の構成

 

 第1問

  訴訟物、個数、併合態様

 第2問 ※第2問以下は、附帯請求につき記載しないという指定があることも。

  主張整理及び争点の記載

 第3問

  主張の撤回等の理由を問う問題

 第4問

  事実認定

 

4 出題傾向の変化

 

主張整理は、全て書くことが求められる。71期までは大ブロックとその要旨で足りるという指定の問題もあったと聞くが、72期ではそのような問題はなかった。

 

5 訴訟物・個数・併合態様

 

・処分権主義より、訴訟物は、訴状の請求の趣旨や請求の原因、よって書きから判断。

・請求の変更や取下げ等に注意。

・訴訟物の特定の程度はよく考える。誤認混同のおそれがなければ省略可。

例えば、売買契約が同じ当事者間で複数存在しているような場合には、「1. 平成◯年◯月◯日の売買契約に基づく目的物引渡請求権」といった記載にする。それに伴い、附帯請求でもきちんと特定をする必要があるので、「2. 上記1の履行遅滞に基づく損害賠償請求権」といった記載にする。

・個数にも注意。債権的請求権なら契約の個数と訴訟物の個数が一致する。物権的請求権なら侵害されている物権の個数物権の個数によって訴訟物の個数が決まる。

2筆の土地について1個の売買契約を締結した場合に所有権の移転登記を請求するとしたら?→債権的請求権(売買契約に基づく所有権移転登記請求権)なら1個、物権的請求権(所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権)なら2個

・単純併合、選択的併合、予備的併合の使い分けをできるように。

 

6 主張整理

 

・要件事実とは、法律要件に該当する具体的事実であるから、事実を摘示する。

・大ブロックには必ず見出しをつける。

・前の大ブロックが複数ある場合は、その対象となる大ブロックを摘示する。

・小ブロックでは、当事者や時点等をきちんと示す。

・よって書きは記載しなくて良い。 

 

<記載例> 

1. 請求原因(売買契約に基づく目的物引渡請求権の発生原因)

あ 原告は、被告から、平成31年4月10日、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)を代金5000万円で買った(以下「本件売買契約」という。)。 

2. 抗弁1(履行遅滞解除)

カ 原告と被告とは、本件売買契約において、本件土地の引渡し及び所有権移転登記手続、平成31年4月20日に、◯◯司法書士事務所で行うとの合意をした。

キ 被告は、平成31年4月20日、本件土地を引き渡せる状態にし、所有権移転登記手続に必要な書類を用意して、◯◯司法書士事務所に行った。

ク 被告は、原告に対し、令和元年5月10日、代金5000万円の支払を催告するとともに、同月20日が経過したときは本件売買契約を解除するとの意思表示をした。

ケ 令和元年5月20日は経過した。

3. 抗弁2(同時履行の抗弁)

コ 被告は、原告が被告に対し、代金5000万円の支払をするまで、本件土地の引渡し及び所有権移転登記手続をすることを拒絶する。

4. 再抗弁(抗弁1及び抗弁2に対しー弁済)

さ 原告は、被告に対し、令和元年5月15日、本件売買契約の売買代金5000万円を支払った。


・規範的要件のルール

 ①事実を記載。評価は記載しない。

 ②評価根拠事実と評価障害事実は両立する。

 ③時的要素がある。

 ④過剰主張も許される。

・争点(=争いのある主要事実)は主張整理の際に付した符号により引用可能

 記載例:「争点は、上記(あ)(カ)(さ)である。」

 

7 主張の撤回等

 

・主張の撤回等をした理由が聞かれたりする。要件事実や民法の理解が問われる問題。

・主張の撤回について

 ①誤った法的見解に基づく主張の場合

 ②主張不足の場合

 ③過剰主張の場合

 ④a+bの場合(※許されたa+b(予備的抗弁等)を除く)

 ⑤訴訟法上無意味な場合(請求原因に対する抗弁の事実に争いがない場合等)

 には主張自体失当となるから、撤回がなされることになる。

 

8 事実認定

 

⑴ 争点

 

・争点(=争いのある主要事実)を正確に把握する。

・否認と不知のものは全て争点になることに注意。

・主張整理の際に付した符号により引用可能。記載方法は上記参照。

 

⑵ 判断枠組

 

・判断枠組の設定にあたっての思考の流れは以下の通り。

(a)直接証拠たる類型的信用文書はあるか

「あり」なら(b)「なし」なら(c)へ

(b)類型的信用文書の成立の真正に争いはあるか

「なし」なら第1類型(特段の事情の検討)「あり」なら第2類型(二段の推定の検討)

(c)直接証拠たる供述証拠はあるか

「あり」なら第3類型(供述の信用性の検討)「なし」なら第4類型(間接事実の検討)

・ どの判断枠組を採用したかについては、きちんと理由を説明する。

・判断枠組は争点ごとに設定する。

・ただし、ある争点についての判断ができれば、自ずと判断ができる付随的争点もある。その場合は関連する争点をまとめて書いてしまうこともできる。

 

<記載例>

「上記争点については、売買契約書(甲1)が提出されている。かかる売買契約書には、原告と被告との間で売買契約が締結された旨が記載されており、まさに要証事実の内容が証拠になっている(※1)原告と被告が作成した(※2)文書であるといえるから直接証拠である。そして、売買契約書は、通常売買契約が締結されていなければ作成されない文書であるから、類型的信用文書にあたる。もっとも、被告は、かかる売買契約書の印影が被告の印章によって顕出されたものであることは認めているものの、被告の娘の夫が無断で無断で印鑑を盗用したものとして、その成立の真正を争っている。したがって、直接証拠たる類型的信用文書が存在し、その成立の真正に争いがある場合であり、二段の推定のうち一段目の推定に対する被告の反証が成功しているかが問題となるから、その点につき以下検討する。」(※1は事実対応性を、※2は体験者性を意識して書いている。)

 

<第1類型の注意点>

・直接証拠たる類型的信用文書が処分証書である場合は、特段の事情の有無を検討することなく要証事実が認定できる

・直接証拠たる類型的信用文書が報告文書である場合は、特段の事情が認められない場合に要証事実が認定できることになるので、特段の事情の有無を検討することになる。

処分証書とは、意思表示その他の法律行為が文書によってされた場合のその文書をいう(「よってした説」「よってされた説」)。

報告文書とは、処分証書以外の文書で、事実に関する作成者の認識、判断、感想等が記載されたものをいう。

・処分証書の定義は、司法試験的には「記載説」(意思表示その他の法律行為が記載された文書)で対応していた方も多いと思われるが、研修所は「よってした説」「よってされた説」であるので注意。処分証書か否かで上記のように検討の丁寧さが変わってくるため、点数に影響を及ぼす部分となる。

・「類型的信用文書≠処分証書」であるという意識を持つ。

・例えば、口頭で売買契約が成立し、その後に当該売買契約についての売買契約書を作成した場合、かかる売買契約書は類型的信用文書ではあるが報告文書ということになる。

∵売買契約書は通常売買契約がなければ作成されないから(売買契約があったことを強く推認させるので)類型的信用文書にあたる。けれども、かかる売買契約書は売買契約を締結した後に作られたものなので、当該売買契約は、かかる売買契約書という文書に「よって」締結「された」ものとはいえないから、処分証書にあたらず、報告文書ということになる。私はそのように理解している(ここはとても難しい)。

 

<第2類型の注意点>

一段目の推定に対する反証の視点

 ①印章の盗用、②印章の冒用、③押印の困難性・不自然性

二段目の推定に対する反証の視点

 ①白紙の悪用、②文書作成後の改ざん

・二段の推定については、ある程度具体的な反証があれば反証が成功しているとして良い。

・盗用型では、印章の保管状況、印章への接近可能性、盗用の動機を検討

・冒用型では、預託の趣旨・目的、預託の事実の有無、冒用の動機を検討

・反証が成功した場合

第2類型で反証が成功したと判断→第4類型に進み間接事実を検討(その際、前記の反証の程度により「被告の印影のある契約書の存在」という間接事実の推認力が変わってくる)

 

<第3類型・第4類型の注意点>

・供述は、当事者自身のものであっても直接証拠として良い。本来は第3類型なのに供述の直接証拠性を否定して安易に第4類型にしないように(ジレカンの※の部分に記載されている実務的な話は起案上は気にしない)。

・第3類型、第4類型の場合、直接証拠たる類型的信用文書が存在しないことを指摘した上で、直接証拠たる供述証拠があるかにつき記述する。そして、直接証拠たる供述証拠が存在する場合(=第3類型)には、どの供述が直接証拠にあたるかを証拠を引用してきちんと特定する。

・第3類型にあたるとして供述の信用性を検討する場合には、検討の対処となる事実は、補助事実ということになる。他方、第4類型の場合には、検討の対象となる事実は、間接事実となる。もっとも、どちらの類型であれ、やっていることは同じではある。

・「原告は、被告に対し、令和元年6月1日にあんぱん1個及びどら焼き1個を代金500円で売った。」という事実が争点となっている場合、原告の「原告は、被告に対し、令和元年6月1日にあんぱん1個及びどら焼き1個を代金500円で売った。」という供述は直接証拠であるが、被告の「原告は、被告に対し、令和元年6月1日にあんぱん1個及びどら焼き1個を代金500円で売っていない。」という供述は直接証拠ではないことに注意。

 

⑶ 動かしがたい事実

 

争いのない事実 (引用方法:「争いなし」)

 主張書面に記載された自白が成立している事実

当事者双方の供述等が一致する事実 (引用方法:「X15Y20」)

 証拠レベル(陳述書や尋問調書等)で供述等が一致している事実

成立の真正が認められ信用性の高い書証に記載された事実 (引用方法:「甲1」)

自認した不利益事実 (引用方法:「X30不利益」)

以上のうち、良く使うのは①と③である。その他、次の認定方法もある。

弁論の全趣旨 (引用方法:「弁論の全趣旨」)

 当事者間に実質的な争いがない場合(例:契約書の不存在)等がこれにあたる

・動かしがたい事実はできる限り具体的に記載する。

 

⑷ 着眼点

 

・まずは、時系列に沿って行為前・行為時・行為後に分ける。

・さらに、それぞれの中でできる限り細分化していく。

・このような流れで検討すれば、ある程度、着眼点ごとに事実を整理できる。

・着眼点の例

 行為前:動機→当事者の関係性、資力、経緯等

 行為時:文書の存否、文書の体裁、文書の内容等

 行為後:請求やそれに対する異議、契約の履行状況等

・着眼点は、見出しとして記載する。

・そして、着眼点ごと事実を記載したうえで、それらに対する評価を加えていく(要証事実に対する推認力の検討)。

・積極事実と消極事実を分けて書かない。着眼点ごとにいずれの事実も記載して評価してしまえば良い。

 

⑸ 総合評価

 

・各着眼点ごとの要証事実に対する推認力を総合して、要証事実が高度の蓋然性をもって認められるといえるかを判断する。

 

<答案構成例>

第1 結論

 原告の請求は、(認められる/一部認められる/認められない)。

第2 理由

 1 争点(あ)について

  ⑴ 判断枠組

  ⑵ 判断過程

   ア 契約前

    (ア) 当事者の関係性

     (事実)

     ① 原告と被告は兄弟である。(争いなし、甲1)

     ② 原告は、被告に対し〜した。(争いなし)

     ③ 原告は、平成31年3月1日、被告に対し「〜」と発言した。(X3、Y8)

     ④ 原告は、平成31年4月1日、被告から〜された。(Y24不利益)。

     (評価)

     ①より、原告と被告は親族であるといえる。

     そのため、信頼によりあえて売買契約書を作成しないこともあり得る。

     他方、②より、〜

     以上を踏まえると、本件売買契約が締結されたことが

     (強く推認される/相当程度推認される/推認力は限定的であるetc)。

    (イ) 経緯

   イ 契約時

   ウ 契約後

   エ 総合判断

 2 争点(カ)について

 3 争点(さ)について

 4 結語 

 

9 ポイント

 

・できる限り多くの事実を拾い、適切に設定した着眼点ごとにきれいに整理して、説得力のある評価をする。

・その前提として、主張整理をきちんと行い、争点を漏れなく抽出し、適切な判断枠組を設定する必要がある。

 

10 使っていた教材

 

 各教材の詳細についてはこちらをご参照ください。

 <要件事実>

・『新問題研究 要件事実』(白表紙)

・『事実摘示記載例集』(白表紙)

・『紛争類型別の要件事実』

・『要件事実30講』

<事実認定>

・『事例で考える民事事実認定』(白表紙)

 

 

以上です。

冒頭の繰り返しになりますが、教官のおっしゃていること、司法研修所で習うことが第一ですので、これまでの記載とずれる部分がありましたら、必ずそちらを優先するようにしてください。